回遊動線はどこまでつなぐ?行き止まり・家事・家族の交差を比べる3実例
この記事の内容
回遊動線があると便利そう、という印象はあっても、どこまでつなげれば自分たちの暮らしに合うのかは迷いやすいところです。キッチンのまわりを一周できれば十分なのか、水回りまで含めて回れたほうがよいのか。それとも、洗濯のように一連の作業を一か所で終えられることのほうが大事なのか。
今回の3実例では、回遊させた理由がそれぞれ違いました。共有ゾーンと居室ゾーンを分けながらLDK内の行き止まりを減らした家、洗濯やアイロンの場所とキッチンをつないで家事の往復や家族との交差を減らした家、上下階に散っていた洗濯作業を一か所へ集めた家です。
見るべきなのは、回遊できるかどうかだけではありません。何を楽にしたくて、どの場所同士をつないだのか。その違いから、回遊動線を広げるべき場所と、あえて広げなくてもよい場所が見えてきます。
デザイエ|共有ゾーンを分けつつ、LDKの行き止まりをなくした家
共有ゾーンと居室ゾーンを、まず分けて考えていた
この家では、LDKや水回りの共有ゾーンと居室ゾーンを完全に分けたい要望があったと語られています。引用では、その要望を受けて垂れ壁を下げ、こちらはLDK水回りゾーン、こちらは部屋という形で空間を分けていると説明されています。
ここで注目したいのは、回遊動線が最初の目的として出てくるのではなく、まずゾーン分けの希望があることです。ここから読み取れるのは、回れる家にしたかったというより、共有ゾーンと居室ゾーンの性格を分けたうえで、共有側の移動を詰まらせないようにしているという組み立てです。
回遊させたのは、家全体ではなくLDKの中だった
そのうえで、この家のLDKは回遊できるようにされていました。キッチンの方へ行きたければ向こうからも行け、リビングの方へ行きたければリビング側にも来られるとされ、さらにキッチンの周りをぐるっと回れる回遊動線にしていると語られています。
この実例で確認できる回遊は、家全体を大きく一周する話ではありません。LDK、特にキッチンまわりの移動先を一方向に固定しないことが主眼です。回遊動線という言葉から広い通路計画を思い浮かべることもありますが、この家では共有ゾーンの中だけで完結する回遊として捉えると分かりやすくなります。
戻る動きを減らしたいとき、回遊が効く
引用では、行き止まりがあってまた戻るような無駄な動きがないことが、この回遊の利点として説明されています。少なくともこの場面では、回遊の理由が見た目ではなく、行き止まりと引き返しを減らすことに置かれていると確認できます。
キッチンまわりは、配膳や片付け、冷蔵庫への出入り、リビングとの往復などが重なりやすい場所です。だからこそ、詰まりやすい共有ゾーンだけを回遊にする考え方が成り立ちます。家全体をつなげる前に、どこで引き返す場面が多いかを見ることが、回遊範囲を決める手がかりになりそうです。
読者が考えたいのは、『どこを回れるか』より『どこで戻りたくないか』
この場面だけでは、通路幅や隣接する部屋の詳細までは分かりません。ただ、共有ゾーンと居室ゾーンを分けたい要望と、LDK内でキッチンまわりを回遊できるようにして、行き止まりによる無駄な動きを減らしていることは確認できます。
もし同じように回遊を考えるなら、まず『家全体を回れるようにしたいか』ではなく、『LDKのどこで行き止まりを減らしたいか』を整理すると検討しやすくなります。寝室側まで通り抜けを増やさなくても、共有ゾーンの中だけに逃げ道をつくる方法もあります。
ハウス39|洗濯の作業場所とキッチンをつなぎ、家事の往復と家族の交差を減らした家
出発点は、洗濯物がたまり、しまうのが面倒だったこと
この実例では、以前の暮らしへの不満として、洗濯物がたまる一方で、しまうのも面倒だったことが語られています。一方で今の場所については、アイロンや洗濯物をたたむこともあるので、すごく使い勝手がよいとも話されています。
ここで見えてくるのは、回遊そのものより先に、洗濯まわりの作業をどこで行うかが重要だったことです。たたむ、アイロンをかける、しまうことへの不満が背景にあるなら、通路計画だけでなく作業場所の質も一緒に見ないと、回遊の良さは判断しにくくなります。
キッチンへ抜けられることで、家事が分断されにくくなっていた
この場所については、こっちからも先ほどのキッチンのように回遊できると紹介され、実際に住んでみて回遊動線があることで家事動線が楽だと答えています。少なくともこの引用では、洗濯まわりの作業場所とキッチン側の移動がつながっていることが確認できます。
洗濯をしながらキッチンへ移る、料理の合間に洗濯物をたたむ、といった動きは、一方向にしか抜けられないと小さな往復が増えがちです。ここから読み取れるのは、この家の回遊が『通り抜けできる』こと以上に、『家事の途中で次の場所へ移りやすい』ことに意味を持っているという点です。
行ったり来たりを減らすだけでなく、子どもとの交差も意識していた
この実例では、ぐるぐる回れると何がいいのかという問いに対して、行き止まりがないので行ったり来たりしなくてよいこと、戻ったときに例えば子どもたちがいたらぶつかったりするので、逆にそっちから行けることが挙げられています。
回遊動線を考えるとき、つい大人の家事効率だけで見がちですが、この家で語られているのは家族がいる前提での移動です。一本道だと、家事中の人が戻る動きと、子どもがいる場所が重なりやすくなります。回遊は距離を縮める手段であると同時に、ぶつかり方を変える手段にもなります。
読者が見たいのは、回遊の輪の大きさより『誰と交差するか』
この場面からは、回遊の正確な形や寸法までは分かりません。ただ、アイロンや洗濯物をたたむ場所として使い勝手がよく、そこからキッチン側へ回遊でき、行き止まりによる往復や子どもとのぶつかりを減らす意図が語られています。
自宅で検討するなら、『キッチンとランドリーを近づけるか』だけで終えず、『家事中に戻る通路で誰と交差しやすいか』まで図面で見たいところです。距離が短くても交差が多ければ使いにくく、少し回っても別方向へ抜けられるなら楽になる場合があります。
株式会社夢広|上下階に散っていた洗濯を、一か所で完結させた家
以前の洗濯動線は、階をまたぐこと自体が負担だった
この家では、以前の住まいで1階で脱いだものを2階に洗濯しに行き、3階で干して、また1階にしまう流れだったと語られています。そして、その動きがすごく大変だったことがはっきり述べられています。
ここでの悩みは、通路で少し詰まるとか、どちら回りが近いかという話ではありません。洗濯という一連の作業が上下階に分断されていたことです。回遊範囲を広げる前に、まず工程を集める必要があった例として読むと、この家の狙いがつかみやすくなります。
アイロン台とコンセントをその場に置き、次の工程へつなげていた
引用では、アイロン台になっている場所があり、ちょうどよい高さで、そのままコンセントがあってアイロンができると説明されています。さらに、そのまましまうだけなので便利だとも語られています。少なくともこの場面では、アイロンをかける場所と収納までの流れが近いことが確認できます。
この実例のポイントは、通り抜けの道を増やしたことより、洗濯の途中で別の階や別の部屋へ持っていかなくてよい状態にしたことです。作業台、電源、収納の位置関係がまとまっていれば、同じ場所で次の工程へ進みやすくなります。
この家の回遊は、『ぐるぐる歩くこと』より『ここだけで終わること』だった
この家では、『回遊動線というかここだけで終わっちゃって完結する』という言い方がされています。その結果、時間もスピーディーになったと語られています。一般的な回遊動線のイメージとは少し違っても、この場面では一連の家事が同じ場所で完結すること自体が価値になっています。
この表現は示唆的です。回遊は必ずしも家全体をぐるぐる歩けることではなく、作業が詰まらず次へ進めることでもあります。特に洗濯のように工程が多い家事では、広くつなぐより、狭くても完結するほうが効くケースがあります。
読者が見落としやすいのは、『回遊』より『集約』が効く場面があること
この場面だけでは、干す場所の詳細や収納量までは分かりません。ただ、以前は1階から3階までまたいでいた洗濯の流れが、今はここだけで終わるようになったこと、そしてアイロンから収納までを近くで進められることは確認できます。
洗濯動線を考えるとき、通り抜けを増やすことばかり考えると、かえって作業が散ることもあります。洗濯については、『どこへ行けるか』より『途中で階をまたがずに終われるか』を優先したほうが合う場合もあると、この実例から考えられます。
3実例を比べると、回遊させる範囲も目的も違った
デザイエの実例では、共有ゾーンと居室ゾーンを分けたい要望があり、そのうえでLDK、とくにキッチンまわりを回遊できるようにして、行き止まりや戻る動きを減らしていました。
ハウス39の実例では、アイロンや洗濯物をたたむ場所の使い勝手と、そこからキッチン側へ回れることが結びついています。行ったり来たりを減らすだけでなく、戻る途中で子どもとぶつかりにくいことも回遊の意味として語られていました。
株式会社夢広の実例では、回遊という言葉が出ていても、中心にあるのは洗濯作業の集約です。以前は1階・2階・3階に分かれていた流れを、一か所で終えられるようにし、時間がスピーディーになったと語られていました。
つまり、回遊動線を考えるときの分かれ目は、『どこを一周できるか』ではありません。LDKの行き止まりをなくしたいのか、家事中の往復や家族の交差を減らしたいのか、洗濯の工程そのものを集約したいのかで、つなぐべき範囲は変わります。
図面を見るときは、回遊の輪を大きくするほどよい、と考えないほうが整理しやすくなります。人の移動が重なる場所では逃げ道としての回遊が効き、工程が多い家事ではその場で完結する集約のほうが効くこともあります。
住宅系YouTuberはこう解説している
ルームツアーとは別に、住宅系YouTubeでは次のような解説があります。
まかろにお【工務店&ハウスメーカー攻略法】|キッチンと水回りが隣接する回遊動線についての説明
まかろにお【工務店&ハウスメーカー攻略法】の『【要確認】ハウスメーカーで残念な設計士の特徴6選』では、注文住宅でよく要望に上がる回遊動線について、マンションの間取りにもあると述べ、水回りとキッチン部分が隣接している間取りをその例として挙げています。字幕では、玄関の広さなどマンションと違う部分はあるとしつつ、LDKや水回りに限って話しています。
建築家二人暮らし|寝室を中心に回遊動線を組む計画の説明
建築家二人暮らしの『建築家二人暮らしの今後やってみたいこと/新しい家具からリノベーション、シェア別荘、ラフプラン』では、寝室を中央に配置し、寝室を中心とした回遊動線のまわりに収納、キッチン、水回りがある計画だと説明しています。あわせて、扉を閉めるとそれまで廊下だったスペースも寝室や洗面室になると話しており、一見廊下に見えるスペースが部屋に変わる計画だと述べています。
打ち合わせで確認したいこと
- LDKまわりで、進んだ先に引き返す動きが多い場所はどこですか。そこだけでも回遊にする必要はありますか。
- 共有ゾーンと居室ゾーンを分けたい希望はありますか。あるなら、回遊させたいのは家全体ですか、それとも共有ゾーンの中だけですか。
- キッチンと洗濯まわりの場所を、家事の途中で何回行き来していますか。そのたびに戻る動きが発生していませんか。
- 洗濯物をたたむ、アイロンをかける、しまう作業は今どこで分かれていますか。一つの場所に寄せられる工程はありますか。
- 家事中に通路を戻るとき、子どもや家族とぶつかりやすい場所はありますか。別方向から抜けられると改善しそうですか。
- 回遊動線をつくりたい場所は、移動を短くしたいからですか。それとも交差や渋滞を減らしたいからですか。
- 洗濯動線は、脱ぐ・洗う・干す・アイロン・収納のどこで階をまたいでいますか。本当に必要なのは回遊ですか、それとも集約ですか。
- キッチンまわりを回遊にした場合、そのぶん減る壁や収納に納得できますか。優先したいのは通り抜けですか、ゾーニングですか。
- 回遊させることで便利になるのは誰ですか。毎日その場所を使う人の動きで見ても、意味のあるつながりになっていますか。
回遊動線は、家を大きく一周できることが正解とは限りません。LDKの行き止まりをなくしたい家、家事中の交差を減らしたい家、洗濯を一か所で終えたい家では、つなぐべき場所が違います。図面を見るときは『回遊にするかどうか』ではなく、『何のために、どこを詰まらせたくないのか』から考えると、自分たちに合う範囲を決めやすくなります。
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